google.com, pub-5997928619777692, DIRECT, f08c47fec0942fa0 不滅のティアラ【10.アスペルド信仰教団の陰謀④】 | しろがねブログ

不滅のティアラ【10.アスペルド信仰教団の陰謀④】

不滅のティアラ

10.アスペルド信仰教団の陰謀④

 私とミリアを乗せた馬車は町外れの森の中を全速力で疾走していた。大きな馬車と単体の馬ではやはりスピードが単体の馬の方が早く私達は徐々に追いつかれていた。

 ミリアの巧みな操作でなんとか逃げてはいるが、追いつかれるのは時間の問題のように思えた。その時いきなり地面が陥没して私たちの乗った馬車は地面に開いた大きな穴の中へ落ちてしまった。

 地上から五メートルほど落下した衝撃により私たちの乗っていた馬車は粉々に壊れてしまった。私たちの後を追っていた男たちも馬ごと大穴に落下した。穴の中の壁には無数の横穴が空いていた。その無数の横穴から奇妙な妖怪のようなものが現れて男たちに襲い掛かってきた。

 私とミリアが馬車の残骸の中に隠れているとミリアが小声で話してきた。

「あれはゴブリンね」

「え? ゴブリン?」

 私はあれがゲームの世界でよくいるゴブリンかと思った。男たちは腰につけた剣を引き抜くと襲い掛かってくるゴブリンたちと戦った。男たちはあっという間に数匹のゴブリンを倒したが、横穴からゾロゾロとでてくるゴブリンに一人また一人と倒されていった。私はいづれ自分達もゴブリンに見つかって殺されると思いどうしようか考えているとポケットからストールがでてきた。私はすぐに自分とミリアの首にストールを巻くとミリアに動かないように言った。

「ミリアこれを首に巻いて動かないで」

「何? これは?」

「気配を消してくれるストールよ。これを首に巻いてればゴブリンたちに見つからなくなるわ」

「本当? わかったわ」

 最後の一人がゴブリンに倒された。ゴブリンたちは私たちが乗ってきた馬車の残骸を見ているが、私たちには気づいてない様子だった。私たちは見つからないようにじっと息を潜めていた。やがてゴブリンたちは侵入者がいなくなったと思いこの場から去ろうとしていた時に、魔法使いの格好をしたゴブリンが現れた。

 私がそのゴブリンを見るとそいつと目が合った。するとそのゴブリンが私を指さして叫んだ。一斉にゴブリンたちが私たちの近くに集まってきた。

「だめだ。あいつにはこのストールが効かないようだ」

 ミリアはそう言うと近づいてきたゴブリンの首を落とした。馬車の残骸からいきなりでてきたミリアになすすべなくゴブリンたちは倒されていったが、数が多すぎるため私とミリアは徐々にゴブリンたちに洞窟の端へと追い込まれていった。

 これ以上はゴブリンの攻撃を防ぎ切れないと思ったとき、上から男が落ちてきた。

「うおおおおおーーーー!!」

 男の手には大きな刀が握られていてゴブリンたちを薙ぎ払った。ゴブリンたちに囲まれながらも勇敢に男は攻撃を繰り出した。その男の横顔を見たときにすぐにその男がレンだということがわかった。

 レンが大刀を振るうたびに大勢のゴブリンの体が宙に舞った。あっという間にレンの周りにゴブリンの死体の山ができた。それでもゴブリンたちは横穴から次々とでてきて私たちに襲いかかってきた。

 レンも負けじと次々に横穴から出てくるゴブリンと戦っていたが、長い時間戦ってかなり体力を消耗したのだろう次第にゴブリンの攻撃を受けて、いたるところが流血していた。それでも諦めることなくレンは大刀を振り続けた。徐々にゴブリンの数が少なくなっていき横穴から出てくる数がだんだんと減ってきた時に一際大きなゴブリンがでてきた。

「まさか? あれはゴブリンソルジャー?」

 ミリアが震えた声で言った。私はミリアに聞いた。

「何? あれは……? 強いの?」

「ああ……、恐ろしく強い。他のゴブリン達とは強さの桁が違う。一体で一個師団に匹敵するといわれている。あれと一対一で戦える者は王宮騎兵団団長のゴルドンだけだろう」

 ゴブリンソルジャーが出てくると他のゴブリンたちは横に逃げていった。ゴブリンソルジャーはゆっくりとレンに近づいて行った。レンは息を整えるとゴブリンソルジャー目掛けて突っ込んでいった。

「うおーーーー!!」

『ガキーーーーン!!』

 レンは大刀をゴブリンソルジャーの頭から振り下ろした。ゴブリンソルジャーは持っていた鉄の棒でレンの攻撃を易々と弾き返すと、大きな鉄棒を軽々と振り回した。ものすごい速さで攻撃を仕掛けてきてレンは攻撃を避けるので精一杯になった。ゴブリンソルジャーは鉄棒を軽々と横に薙ぎ払った。

『ブーーーーン!』

 ゴブリンソルジャーの鉄棒が空を斬ったが、空を切る音だけで洞窟中に音が響き渡った。もし人間にあたればバラバラになってしまうだろうと思った。その後も執拗に大きな鉄棒を振り回してレンに襲いかかった。レンはゴブリンソルジャーの攻撃を巧みに交わしていたが狭い洞窟の中なので逃げ場所が少なく徐々にレンは追い詰められていった。

 レンにこれ以上逃げ場がないと思った時、私は咄嗟に馬車の残骸から出てゴブリンソルジャーに向かって叫んだ。

「こっちよ!!」

 私は囮になってゴブリンソルジャーをレンから離そうとした。案の定ゴブリンソルジャーがこっちをみた。

「バカヤロー!! 何やってんだ! 早く逃げろーー!!」

 レンが私に向かって叫んだ。

 ゴブリンソルジャーは私を見るとこちらに向かって走り出し、私の目の前に立った。私は近くで見る怪物の大きさに全身が凍りついた。ゴブリンソルジャーは私を攻撃しよう鉄棒を振り上げたときミリアが攻撃した。

「グゥアーー!」

 ゴブリンソルジャーは苦しそうに叫び声を上げると手足の関節から鮮血を飛び散らせながら転げ回っていた。ミリアは怪物の手足の関節を攻撃して靭帯を何箇所か斬ったようだ。この攻撃でゴブリンソルジャーは鉄棒を持てなくなった。

 私はこれでもしかすると勝てるかもしれないと思った瞬間、ゴブリンソルジャーはミリアを掴むと岩壁に投げ飛ばした。ミリアは岩壁に強か体を打ち付けると口から血を吐いて倒れると動かなくなった。武器を持てなくなったとはいえまだかなり力が強いことがわかった。次に私に殴りかかろうと拳を振り上げた。

『ドン!』

 私はゴブリンソルジャーに殴られる寸前、後ろに突き飛ばされた。私を突き飛ばしたのはレンだった。レンは私を突き飛ばしてゴブリンソルジャーの攻撃をまともに受けて吹き飛ばされた。

「キャーーーー! レンーー!」

 私はレンのところに駆け寄ろとしたが、行手をゴブリンソルジャーに阻まれた。ゴブリンソルジャーは私の前に仁王立ちになると両腕を組んで頭の上に振り上げると私目掛けて拳を振り下ろした。私は今度こそ死を覚悟した。

「グゥアーーー」

 私がゆっくり目を開けると、ゴブリンソルジャーが苦しそうにもがいていた。レンがゴブリンソルジャーを後ろから羽交い締めにしていた。ゴブリンソルジャーはレンの腕を掴むと無理やり剥がしてレンの体ごと地面に叩きつけた。

「ぐはーーー!」

 レンは勢いよく地面に叩きつけられると口から大量の血を吐いた。私がレンに駆け寄るとレンは苦しそうに早く……逃げろ……、と言うと全身から血を吹き出しながら再び立ち上がった。私は、もうやめて! これ以上戦うと死んじゃうよ、と泣きながら叫んだ。

「お……前は……俺が守る……命に変えてもな!」

 レンはそう言うとゴブリンソルジャーに飛びかかっていった。ゴブリンソルジャーは両手を組むと頭上に振り上げてレンが飛びかかってくるタイミングに合わせて上から拳を振り下ろした。レンは背中に拳をモロに受けて足下に叩きつけられた。ゴブリンソルジャーは片足を上げて倒れたレンの頭めがけて足を下ろそうとした。

「ヴァーーーーーーーー!!」

 ゴブリンソルジャーが苦しそうに叫び声を上げてもがいていた。見ると胸から剣の先が出ていた。何者かがゴブリンソルジャーを後ろから剣で刺していた。その人物は剣を刺したまま怪物の大きな体を上に持ち上げた。

「大烈斬」

 男はそう言うとものすごい速さでゴブリンソルジャーを袈裟斬りに切って真っ二つにした。怪物を倒した男は高価そうな鎧に包まれて左目に眼帯をしていた。

「大丈夫か?」

 眼帯の剣士の後ろから別の男の声がした。私は声のした方を見るとその男はアルフレッドだった。

「アルフレッド? なぜこんなところにいるの?」

「いやー。ゴルドンと一緒にこの洞窟を探索していたら君の悲鳴が聞こえてきたから急いで駆けつけたんだ」

「そうなの、助けてくれてありがとう。そちらの剣士は?」

「ああ。彼はゴルドンと言って王宮騎兵団の団長だよ」

 私はゴルドンに助けてくれたお礼をするとレンとミリアの下に駆け寄った。

「どうしよう? アルフレッド二人を助けることはできない?」

「大丈夫だ、ティアラ。俺は少しだけなら回復魔法が使えるから安心しろ」

「本当! お願い二人を助けて」

 私がそう言うとアルフレッドは二人に回復魔法をかけてくれた。全て元通りとまではいかないものの、二人とも意識を取り戻して少しは動けるまでに回復した。王宮騎兵団のゴルドンはレンの体を触ってびっくりしていた。

「お前全身の骨が折れていたのによくゴブリンソルジャーと戦うことができたな」

「守りたいものがあったから……」

「たいした根性だ! お前王宮騎兵団に入らないか? 俺が直々に訓練してやるぞ、もしかするとお前なら俺より強くなるかもしれんぞ!」

「ほ……本当か? 強くなれるなら……今度こそ……お……俺が守ってやれるなら……」

 そう言うとレンは気を失って倒れた。私はなぜレンが命をかけてまで私を守ってくれたのか、この時はまだわからなかった。 

 私たちはクロノスの町へ帰った。

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