不滅のティアラ【12.アークガルド学園に入学】

不滅のティアラ

12.アークガルド学園に入学

 国王との謁見から数日経って伯爵の称号を与えられた私の家族は国から用意された屋敷に住むことになった。大きな屋敷に移ったはいいがこんな大きな屋敷で住んだことがないためたくさんの部屋があるにも関わらず一つの部屋で家族全員で住んでいた。

 父は伯爵の身分になっても相変わらず辻馬車の仕事をしていた。父曰く辻馬車の仕事は自分の天職だから身分が変わろうと続けていくとのことだった。でも最近はパープル商会のおかげで賃金も高くなったし仕事も楽になったと喜んでいた。

 母は家事をしたくてもお手伝いさんがみんなやってくれるので暇を持て余しているようで広い庭にたくさんの花を植えて楽しんでいた。

 私は明日からアークガルド公国学園に入学するための準備をしていた。とりあえず参考書をカバンに詰めてひと段落していたがまだ制服がきていないので明日はレンと一緒に私服で登校することになった。

 次の日になり私とレンは一緒に学園に登校した。学園の門の前に来ると多くの生徒が登校していた。アークガルド公国学園は魔法科・商業科・騎士科の三つの科目に分かれており、私は魔法科、レンは騎士科に入学した。制服は魔法科はローブで商業科と騎士科は同じ制服で肩と胸に金属のプレートがついた制服を着ていた。

 私たちが学園の中に入るとそれぞれの科の制服を着た生徒たちが一斉にこちらを見てきた。ここの学生たちは子爵や騎士、豪商の家系の氏族たちが多く制服を着ていながらもきちんとした身なりで子綺麗にしている者ばかりだった。そんな中私服で来た私たちは随分と浮いていたので恥ずかしかったが、レンは一向に気にする気配はなくズンズンと歩いていた。するといかにもボンボンだろうと思われる男子生徒が私たちの前に現れた。

「お前たち何しに来た? ここは庶民が来るところじゃないぞ!」

 レンが男子生徒を睨みつけながらゆっくりと近づいて行った。レンも体が大きいが男子生徒も体が大きかった。レンが男子生徒の前まで行くと取り巻き達が私達を囲んだ。かなりの数の取り巻きがいるところを見ると目の前の学生は学園でかなりの地位にいることがわかった。

 私はすぐにレンに近づくとレンの肩を押さえて喧嘩をしないように言った。

「やめてレン庶民に間違われるのは仕方ないことよ、まだ制服も着てないし、こんな格好だからね。入学早々問題を起こしてはだめよ」

 私はなんとかレンを説得してまた二人で歩き出そうとした時、再び男子生徒が言ってきた。

「なんだ? 怖いのか? 臆病者!」

 男子生徒の挑発に周りの取り巻き達も一斉に笑い出した。その笑い声にレンが立ち止まった。

「やめてレン。無視して行きましょう」

 レンの腕を掴むと震えているのがわかった。どうやら我慢の限界にきているようだった。これ以上抑えるのは無理かもしれないと思った時、周りの群衆から声が聞こえてきた。

「ティアラ?! レンじゃないか!」

 群衆からひょっこりとクリスが出てきた。

「クリス!」

 思わずそう叫ぶとクリスのもとに近づいた。

「入学を許可されたと聞いていたが、そうか今日から登校だったんだね」

「ええ。クリスもここの生徒だったんだ。知らなかったわ」

「ああ。僕は商業科で学んでいるんだよ」

 私とクリスがそんな会話をしている間もレンは男子生徒をずっと睨んだまま微動だにしなかった。クリスがそんなふたりを見て男子生徒に言った。

「バネット、この二人は僕の友人なんだが、何か二人に用でもあるのかい?」

「ふん。なんでもないよ!」

 バネットと呼ばれた男子生徒は私達を睨むと取り巻き達を連れて学園の中に入っていった。

「彼は誰?」

 私はクリスにバネットのことを聞いた。

「彼はバネットと言って騎士科の生徒だよ。学園でも5本の指に入る強い奴でそれをいい事に取り巻き達を連れて我が物顔で跋扈ばっこしているのさ」

「ふーん。そうなんだ」

「どうしたの? 彼に不満があるのなら僕がなんとかしようか?」

「い……いえ。なんでもないのよ。気にしないで……」

 そう言うと私たちはそれぞれの科の教室に別れた。私は魔法科、レンは騎士科、クリスは商業科だった。

 ◇

 レンはイライラしていた、騎士科の教室に入ると先ほどティアラと自分を馬鹿にしたバネットと取り巻き達がいたからである。バネットと取り巻き達はその後もレンに嫌味を言ってきたが、ティアラから問題を起こさないように言われていたので無視することにしていた。

 その日の午後に剣術の授業が行われた。剣術指南の教官がいつにも増して緊張していた。生徒達もそんな先生の雰囲気を悟ったのか訓練場の空気がピリついていた。

「本日は剣術指南役として特別ゲストに来ていただいた。どうぞお入りください」

 教官がそう言うと訓練場に一人の男が入ってきた。男を見た生徒達は皆一斉にびっくりしてどよめきが走った。入ってきた人物は王宮騎兵団団長のゴルドンだった。

 騎士科の生徒達はゴルドンにいいところを見せれば王宮騎兵団に入れるかもしれないと思い皆必死でアピールしていた。やがて実践形式の対戦が行われることになり、バネットは生意気なレンを倒してそれをゴルドンに見せて騎士として大成できると思い、レンと対戦することを教官に願った。

 教官もそれを了承してバネットとレンの対戦が行われることになった。二人は木刀をもち訓練場の台座の中央に立った。二人を見てゴルドンが教官に言った。

「やめておいた方がいいんじゃないか? 実力差がありすぎるぞ」

「ええ。でもバネットだったら勝ち方を知っているので相手のレンも少しのけがで済むと思いますので、大丈夫ですよ」

「いや。そうじゃなくて、バネットという生徒ではあいつに勝てないぞ」

「え? バネットは騎士科の中でも5本の指に入る強者ですよ」

 二人がそんなことを話しているとは知らずにバネットとレンの勝負がはじまった。開始の合図を聞いた途端にバネットが攻撃を仕掛けてきたが、どの攻撃もレンには当たらなかった。その場にいる全員が不思議に思っていたが、レンはすでにバネットの攻撃を見切っていた。教官も何が起こっているのかわからないといった表情をしていたので、その顔を見たゴルドンは口を開いた。

「以前レンの剣筋を見たことがある。あいつはうちの小隊長クラスの剣技を持っている。並の剣士ではあいつに勝つことはできないだろう」

「まさか? バネットでは勝てない?」

「だろうな」

「まずい。すぐに止めさせなければ」

 教官が試合を止めようとした時にはすでに決着がついてた。バネットはレンの足元に気を失って倒れていた。

「どうした? 何が有ったんだ?」

 教官は近くの生徒に何があったか聞いた。

「そ……それが……ものすごい速い剣筋で……な……何があったか、わ……わかりません」

「何だと?」

「レンの攻撃がバネットのみぞおちに決まったんだよ」

 ゴルドンが教官に説明した。

「どうやらここでレンの相手をできる者はいないようだな」

「ど……どうするおつもりですか?」

 教官はゴルドンに聞いた。ゴルドンは当然という顔で答えた。

「あいつは俺が鍛える。もしかすると俺も辿り着けなかった境地にレンは行くことができるかもしれん」

「あなたが辿り着けなかった境地とは? ま……まさか?」

「そうだ。このダグラス大陸の長い歴史の中で唯一、剣聖と呼ばれた男」

「け……剣聖エナジー」

 伝説級の人物になれる男が目の前にいることに驚きを隠せなかった。ゴルドンに言われると不思議となれない理由がないと思う自分がいることに教官は驚いた。

 この日以来、レンはゴルドンの元で剣の修行を行うようになり、騎士科の生徒でレンに歯向かう者はいなくなった。

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